遺品整理の不思議な話
弊社は遺品整理の業務を10年以上行っています(個人事業から合わせて)。長くやっているといろいろな現場があるんですが、振り返ると不思議な話だったなと思うことを書いてみようと思います。(一部フィクションです)
ある暑い夏のこと
いつものように遺品整理のお問い合わせから現場確認に向かいました。
お客さんからは「結構すごいことになっています」とのこと。経験上、お客さんからこう言われる場合、「相当だな…」と思うことが多いです。現場に着く前から覚悟を決めていました。
現地に近づくと、地図には載っていない場所が出現しました。お客さんと連絡を取り合いながら、グーグルマップでは見つけられない奥地に向かいました。到着した場所は、一見すると何の変哲もない平屋の家。しかし、外観とは裏腹に、家の周りには奇妙な静けさが漂っていました。
玄関に入る前から、家の中から荷物が溢れ出しているのが見えました。玄関を開けると、まず目に飛び込んできたのは、壁際に積み重なった猫缶の山。部屋中に雑然と広がる荷物が、かつての住人の生活を物語っているかのようでした。
家の内部は、まさに迷路のよう。家具の隙間をかき分けながら奥へ進んでいくと、狭い通路が現れました。まるでトンネルのようなその通路をくぐり抜けると、そこに待っていたのは床から天井まで荷物で埋め尽くされた部屋。その場所は、まさに初めて見る現場のような異様な光景でした。
予想外の出来事
荷物がこれほどまでに積み上がっている現場は、これまで経験した中でもトップクラスでした。見積もりを出す際にも、全ての荷物を確認することができなかったため、3日間で終わるという楽観的な予想を立ててしまいました。しかし、実際の作業は6日間に及びました。
結果、予定していた日数の倍がかかり、利益はほとんど残りませんでした。しかし、この経験を通して、見積もりの際にはどこをチェックすべきかを学びました。特に、今回のような特殊な現場では、予測を超える事態が起こり得るという教訓を得たのです。
実務作業開始
作業を開始したのは、玄関から。玄関はまさに猫の住処と化しており、猫の皿やおもちゃが散らばっていました。しかし、最も驚いたのは、居間でした。家具や新聞紙が山積みになっており、その上でかつての住人が寝食を共にしていた痕跡が残されていました。居間を片付けると、さらに奥へと進みました。
そして、ついに問題の部屋にたどり着きました。この部屋は、まさに猫の空き缶で埋め尽くされており、足の踏み場もない状態でした。かつてこの部屋は子供部屋だったのかもしれませんが、今では猫缶の墓場のようになっていました。住人は、この部屋を倉庫代わりにしていたようで、長年にわたって空き缶を投げ捨て続けた結果、このような光景が生まれたのです。
あの時の野良猫は
何日も同じ現場に通っていると、作業員の中には猫好きがいて、つい情が移ってしまいます。作業の合間に猫に餌をやるようになり、いつしかその猫は私たちの仲間のように感じられるようになりました。しかし、作業が終われば現場を去らなければならず、その猫ともお別れです。あとは野良猫としてたくましく生きていってほしいと願いました。
数年後、近くで別の現場があったため、懐かしい思い出に浸りながら当時の現場に立ち寄ってみました。しかし、その場所はすでにリサイクル施設に変わっており、当時の面影はありませんでした。
ところが、リサイクル施設の事務所で少し話をしていたところ、ふと目に入ったのは一匹の猫でした。その猫は、まさに当時の猫にそっくりでした。毛並みや表情、どこか懐かしさを感じさせる佇まいに、思わず「あの時の猫かな?」と考えてしまいました。野良猫から飼い猫へと昇進を果たしたのかもしれません。そんなことを考えると、人生の奇妙な巡り合わせを感じずにはいられませんでした。